くすりの勉強 PR

揉む注射、揉まない注射

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

ワクチン充填業務の会場を白衣で歩いていたら、接種したと思われる高齢女性に話しかけられました。医師だと思われたのかもしれません。

「この注射は揉んだ方がいいのかしら」

「揉まなくて大丈夫ですよ」

そう答えてからふと気になった。

最近の注射って揉んでくださいって言われてないような…?

そもそもなぜ揉むのか

理由は2つあります。

硬結を防ぐ(注射部位が固くなることを避ける)

薬液を拡散して周囲組織に浸透させて吸収を促進する

揉む注射

アドレナリン筋肉注射

筋肉内に薬液が拡散されて吸収される時間を短縮できる可能性がある(添付文書に記載はなく、エビデンスも乏しい)

抗菌薬(ゲンタマイシン、セフメタゾン、カナマイシン等)

筋肉内注射をした後は硬結を防ぐために局所を十分に揉むこととと添付文書に記載あり

揉まない注射

コロナワクチン

軽い押さえるだけで揉まなくてよい。

ちなみになぜ筋肉内注射なのかというと、筋肉の中は血流が豊富で免疫細胞も多く分布するため、筋肉に注射されたワクチンの成分を免疫細胞が見つけやすく、その分その後のワクチンによる免疫の活性化が起きやすくなると考えられているからと言われています。

インフルエンザワクチン

予防接種後には血が止まる程度に押さえるだけでよい

揉んでも揉まなくても免疫獲得の影響に差はない

あまり強く揉むと皮下出血をきたすこともある

(予防接種に関するQ&A集2019 一般社団法人日本ワクチン産業協会)

リュープロレリン

注射の中にマイクロカプセルという小型のカプセルが懸濁されているので揉むことで潰れてしまい主薬が過量に放出されてしまう可能性がある

ちなみにリュープロレリンは日本では皮下注射が適応だけど、海外では筋肉内注射が適応になっています。これによって硬結を感じやすいとも言われています。

エビリファイ持続性水懸筋注用、サンドスタチンLAR筋注用、ケナコルト-A筋注用関節腔内用水懸注、ゼプリオン水懸筋注、リスパダールコンスタ筋注用、アタラックスーP注射

持続性のものであったり、脂肪組織に逆流が起きたりなど、理由が明確に添付文書に記載があるものもあればないものもありました。

皮下注射全般

元々ゆっくりと吸収させる目的なのであえて揉んで速く吸収させる必要性がない。皮下注射は組織の浅いところに薬液が残っているので、強く揉むことで薬液が漏れ出てくる可能性がある

※一般的にインフルエンザは日本国内において皮下注射なので分ける必要性がありませんが、インフルエンザワクチンは国内で最も有名な注射でもあるので、別枠で記載しました。ちなみに海外ではインフルエンザワクチンは筋注です。

まとめ

現在の注射ではほとんどが「揉まない」でした。

特殊な事例を除いて「揉まない」が主流なので、特殊な事例だけ覚えていけばよさそうですね。ちなみに新型コロナワクチンでの筋肉内注射の国内での普及からもしかすると海外に倣って筋肉内注射がもっと増えてくるかもしれません。世界の多くの国々では、生ワクチン以外のワクチンはこの筋肉注射での予防接種が広く一般的となっていました。

筋肉内注射は痛いのではないかというイメージもありましたが、今回のワクチンの接種感覚からするとそんなこともなかったので、注射針も進化しているのだと思います。

薬剤師的には血液凝固阻止剤を用いている方には、止血に関してアナウンスをしてあげるなどが必要になります。「接種後に少なくとも2分ほど接種部位を圧迫するなどの処置が血種の予防として重要となります」この一言も声掛けだけでも意識すると良いと思います。