無菌調剤に対してどのようなイメージを持っていますか?
私には関係ない。難しそう。導入するお金はありません
こういった意見を持たれる方もまだ多いのではないでしょうか。しかし、これからの薬局業務の推進の際にはもしかすると欠かせなくなってくる可能性があります。
しかし、無料で導入できるというわけでもありませんので、導入の際の金額的な負担、経営にプラスで与えるインパクトなどを少し振り返ってみたいと思います。
無菌調剤を実施するまでの流れ
無菌調剤を開始するためには3つの方法があります。
①無菌室+クリーンベンチを導入する
最初に思いつくプランがコチラだと思います。私のところがこれに該当します。私の場合は無菌調剤をするのであれば無菌室があった方が有利だろうという(短絡的な)考えでの導入です。
これをスタンダードだと思ってしまうと少しハードルが上がってしまうかもしれません。実際にスペースの問題、導入の価格の問題で諦めてしまうこともあるでしょう。
②無菌室を持っている施設との共同利用契約を結ぶ
共同利用契約という方法もあります。無菌室は共同利用することが可能なので、契約を結ぶことで自施設同様の評価を得ることができます。ただし、クリーンベンチだけの施設は共同利用の対象外なので注意が必要です。
各自治体によって県薬剤師会が無菌室を共同利用のために用意しているなどもありますので自身の周辺環境をチェックしておくと良いでしょう。
施設によっては休日や夜間帯には共同利用時間対象外のところもあります。癌末期患者など急変時に必要になる麻薬皮下注指示などに対応できない可能性があるので注意が必要です。
③クリーンベンチのみを導入する
自身の薬局にクリーンベンチのみを設置する方法です。比較的安価に始めることができますが、各自治体によってクリーンベンチの置く場所の制限や仕切り・カーテンなどが必要となることがあるので注意が必要です。
設備投資費用
①無菌室+クリーンベンチ:総額650万円
少し具体的に分割をすると、
無菌調剤室パネル設置費:240万円
空調設備:70万円
手洗い器:30万円
パスボックス:80万円
クリーンベンチ:90万円
組み立て費:50万円
床張り替え:30万円
電気工事:40万円
備品(棚等):20万円
2021年の設備導入当初の費用ですので参考にならないかもしれません。現在は原材料費高騰の影響があり少し高くなっているようです。
余談ですが、棚やイスなどはもっと安くできたのではないかと反省しています。ステンレス製の棚など半値以下で導入可能でした。
②無菌室を持っている施設との共同利用契約:年会費+2,000~3,000円/回
実は比較的割安なのはこの方法かもしれません。実は数年に1回の頻度で無菌室のHEPAフィルターを交換しなければなりません。この交換が高額になるために、年会費と使用量が掛かったとしても共同利用の方が安価になります。
薬剤師会などが共同利用を進めている場合には比較的コストを抑えられます。薬剤師会以外が契約元の場合には借りようと思っても貸してくれないということあるので注意が必要です。
③クリーンベンチのみを導入:10~100万円
卓上の小型クリーンベンチの最安値(ISOクラス5相当)のもので81,340円(アスクル参照)、ある程度の作業スペースなどが見込めるもので20万円前後で購入可能です。
無菌調剤で経営的なメリット
無菌製剤処理加算からの経済的メリット
6歳以上 | 6歳未満 | |
中心静脈栄養法用輸液 | 69点 | 137点 |
抗悪性腫瘍剤 | 79点 | 147点 |
麻薬 | 69点 | 137点 |
麻薬の点で計算から例題
重要なのは1日当たりの点数という点です。例えば麻薬の注射での処方の場合にはこのような形で処方されます。加算点数を計算してみましょう
モルヒネ塩酸塩注50㎎/5mL 5アンプル
生理食塩液 50mL
備考:流量0.2mL/h 疼痛時頓用1時間分早送り(患者年齢60歳)
流量0.2mL×24時間=4.8mL/日となりますので、この充填されたものは何日分かというと100mL÷4.2mL/日=23.8日分となります。さらに繰り上げで算定して問題ありませんので24日分となり、加算は1,656点となりました。
早送り分は考えなくて大丈夫なようです。今のところ返戻などはないので大丈夫だと思います(返戻や指導が入ったらすぐに書き換えます)
また加算に関しては地域によって判断が異なるケースがあるので、ご自身のところのルールに合わせて運用してください。
実際の在宅医療の現場ではこのくらいの処方だと2週間ごとの麻薬交換が見込まれるので、安定している方はこの加算が月に2回となりますので、3,312点/月くらいの見込みが立てられます。緩和療法に入っている方なので、長期での使用を意識したものではないかもしれませんが、加算だけで3,312点はインパクトがあるのではないでしょうか。
1回の充填に30分程度が掛かるとしてもその30分の作業が1,656点と考えると費用対効果の高いものになります。
さらに、2022年には在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算(250点/回)が新設されています。また月2回の在宅患者訪問薬剤管理指導料【麻薬有】(750点/回)も加えられますので、結果として3,312点+500点+1500点→5,312点が算定できます。
【結論】
月に1人だけ対応したとして、毎月算定できるのであれば、年間技術料で63,744点となります。1人だけで600万円の構造設備費の10分の1を回収できます。
小児患者を応需することも計算をしてみる
別の計算として小児在宅への参画です。
小児(乳幼児)在宅をしているところからの話では、中心静脈栄養を行っている場合には月4回の訪問(実際には4回以上の訪問が必要になります)が必要になり、さらに年間を通しての輸液調整が必要になるので、 中心静脈栄養法用輸液:137点×30日=4,110点、 在宅患者訪問薬剤管理指導料 :650点×4回、在宅中心静脈栄養法加算:150点×4回となり合算すると、7,310点/月となります。
【結論】
月に1人だけ対応したとして、毎月算定できるのであれば、年間技術料で
87,720点となります。1人だけで600万円の構造設備費の7分の1を回収できます。
無菌調剤を行うことの付加価値としてのメリット
周辺に無菌調剤を行っている薬局は多くありますか?
答えは2022年春現在はNOだと思います。
保険調剤薬局という枠組みの中で個性の出しにくい業態の中で「無菌調剤を行っている」というのが薬局の個性に繋がるのは非常にメリットが高いことです。
無菌調剤を行うことは薬局としての付加価値にも繋がります。地域連携薬局の選定条件にもなり(現在は患者紹介でも可)、無菌調剤を行っているというだけで薬局の価値を少し上げることができます。
経営的なメリットは金銭的なものだけでなく、企業としての社会的責任を果たしていることを近隣にPRする材料にもなります。その結果として、私は集患や集労働者(薬剤師)に繋がるのではないかと期待しています。
結論
数店舗を保有している薬局は無菌調剤室+クリーンベンチで同一法人内での共同利用をオススメします。メンテナンス費用が少なく済むこと、無菌調剤に関わる材料を集中させることで無駄なく管理が可能なことが理由に挙げられます。
本腰を入れるほどではないけれど、無菌の依頼があったら断りたくない薬局の場合では共同利用をオススメします。この方法を取ることで効率的に技術料単価が高い患者だけをフォローすることができます。各共同利用施設の状況にもよりますが、夜間休日に無菌調製の依頼が入ったときに対応できなくなる可能性があるので、その点は処方元とうまくやり取りを行う必要性があります。
1店舗のみの薬局、営業は少し苦手・まだ処方元がどこになるのか見当も付いていないという場合はクリーンベンチのみの導入をオススメします。とにかく初期費用が安く済むため、段階を踏んで焦ることなくPRすることができます。ただし、初期コストが安いために後発参入しやすく、他薬局と差別化のポイントとなるにくいために周辺薬局の状況などはしっかりとつかんでおきましょう。
やりたいと思ったら導入すれば良いと思いますが、導入後には必ずそれを生かした戦略も必要になります。設備の導入から手技の獲得、そして関係者への営業など一貫したプランを立てて導入していきましょう。そしてその営業手法はまた別の記事でお会いしましょう。