損益計算書はご存じでしょうか?
恥ずかしながら私は独立するまで全くわかりませんでした。最近では株に興味のある方なども多く、損益計算書を読めるという方も増えています。
損益計算書を読めるようになっておくと、自身の店舗の状況や課題に対しての施策検討や振り返りなどができるようになります。独立を考えている方だけでなくとも、簡単に企業の利益構造をわかるようになっておくと強いかもしれません。
独立を考えている方は是非ともわかるようになってください。とても簡単なので読めばわかります。
利益構造わかってないと銀行にナメられますよ!
私は薬剤師なので会計のプロではありません。そのために詳しく知りたい方は参考書などで勉強することをオススメします。今回は薬剤師が店舗の損益計算書に興味を持つことを目標に作成しています。
損益計算書とは
損益計算書(P/L)の役割
損益計算書(Profit and Loss Statement)の略称などはどうでも良いですが、P/Lと表記されることが多くあります。
「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュ・フロー計算書」の3種類の決算書類の1つで、1年間の利益や損失を表す書類です。
私の場合は月次で損益計算書を作成して推移を追うようにしています。そのために今回の解説する損益計算書は月次の数値を使用しているものがあります。
薬剤師が損益計算書を読めるようになるメリット
自社(自店舗)の収益がわかるようになる
自店舗の収益を理解しておくことで、店舗の改善策を広く考えることができるようになります。ある施策を講じたときにどの程度会社に貢献したのかを判断する材料になります。
下記の例を考えてみましょう。
(例)私の施策によって会社は500万円の売り上げ増となりました
いかがでしょうか?会社の売上が500万円上がったのだから評価するべきでしょうか?
500万円売上を上げましたが、広告などもあって200万円経費に使ってしまいました。仕入れですか?結構良い品だったんで、400万でなんとか頼み込んで卸してもらいました。
もちろん継続することで利益を生む可能性はありますが、現在この商品の「売上」に対して「儲け」は出ていないことがわかります。
このように自店舗で何か施策(プラン)を実行したときに「売上が上がった。ワーイワーイ」ではダメなのです。最終的にいくら「儲け」が出ているかを確認しなければなりません。
損益計算書を読めるようになることで「売上」「利益」を把握することができます。そして「効率的な儲け方」を検証することができます。
会社の将来性の予測を立てる
続いては自店舗の将来性の把握にも用いることができます。
また例を元に考えてみましょう。
(例)自店舗の売上は1000万円でした。隣の薬局は900万円だったので自店舗の方が儲かっています。先月も自店舗が勝っているようなので将来が安泰です。
もうわかると思います。これだけでは判断材料にはなりません。これに情報を追加するとどちらの方が成長性がありそうかわかるはずです。
自店舗は先月900万円売上を上げましたが、今月は1000万の売上です。隣の薬局は先月500万円の売上でしたが、今月は900万円の売上のようです。
自店舗は薬剤師4名体制です。隣の薬局薬剤師は1名体制で運営しているようです。
まだ情報は足りていませんが、伸長率だけでも鈍化傾向の自店舗に対して急激な隣の店舗に脅威を感じていなければなりません。さらに人件費を考えると、隣の薬局の人件費は自社(A社員)の薬局よりも安いはずです。そうなると売上では勝っていても、利益では劣っている可能性が大きくあります。
この推移を見ていくことで、自社の売上推移、利益推移を確認することができます。この推移が鈍化していないか、右肩下がりになっていないかに注目することで成長を確認することができます。
損益計算書を読めるようになることで「売上」「利益」を把握することができます。そして「売上推移」「利益推移」から過去の自社と比較することで、現在の活動が成長を促しているのか、衰退を促しているのかを検証することができます。
自分自身の活動が給与に見合っているか判断する材料になる
以上のことがわかればこの項目はわかると思います。利益が上がらない活動に対しての評価は低く、利益を効率的に上げられる活動は評価されやすくなります。また、頑張っているので給与を上げてくださいという精神論で交渉するのではなく数値で交渉できるようになります。
「搾取されているかも!?」の確認方法はまた別の機会にアップしようと思います。
構造について考える
5つの利益について
売上総利益(粗利)=売上高ー売上原価
→薬を売って稼いだ利益
営業利益=売上総利益ー販売費及び一般管理費
→薬局運営で得られた利益
経常利益=営業利益ー営業外費用(+営業外収益)
→副次的な収入も含めた利益
税引前当期純利益=経常利益+特別利益ー特別損失
→臨時収入も含めた利益
税引後当期純利益=税引前当期純利益ー法人税等
→最終的に会社に残る利益
3つの収益について
売上高
→窓口調剤収入+保険請求収入+自費売上+OTC
営業外収益
→補助金関連
特別利益
→固定資産売却益、投資有価証券売却益等
5つの費用について
売上原価
薬の納入価
販売費及び一般管理費
販売活動に要した費用、諸経費、租税公課など
営業外費用
支払利息、有価証券売却損など
特別損失
災害等の損失、固定資産売却損など
法人税等
法人税、住民税、事業税など
損益計算書を経営に生かす
小規模薬局経営に必要な項目だけをピックアップしよう
ここまで書いてきましたが、全部を理解しようと思ってもなかなか手を進めることができません。ここからは私のやり方です。瞬間的にザックリと会社の利益を算出していきます。これをやるだけで毎月の作業も時間が掛からず、即座に毎月の施策や目標を立てることができます。
※毎月の損益ザックリ計算書を出すために、ここからの例は単月の処方箋応需で見ていきたいと思います。
ステップ①:売上総利益の算出
薬局の処方箋応需でどの程度の利益が出るのかを判断する材料
本来であれば毎月の保険収入全体から仕入れの金額を引いて、棚卸額の月初月末の差をそこに足しこむことで算出されます。しかし、これでは時間が時間が掛かります。場合によっては各卸の請求書を確認しなければなりません。ここで一気にザックリ簡略化します。
売上総利益=調剤技術料+薬剤料×値引き率
私の会社では値引き率を15%(納入価85%)で計算しています。値引き率は小規模店舗では10~20%とされているデータがありますので、個々の店舗実情に合わせて設定すると良いと思います。単店、面調剤ほど低くなり、他店舗、門前の方が高くなる傾向にあります。
それでは私の会社の場合で計算してみます。
計算はわかりやすように月次で算出してみます。実際の税理士作成の月次損益計算書との差異をチェックしてみます。
ザックリ売上総利益(調剤技術料+薬剤料×値引き率)
調剤技術料:3,143(千円)
薬剤料:6,403(千円)
ザックリ売上総利益=3,143+6,403×0.15→4,103(千円)
税理士作成のホンモノ売上総利益(純売上高ー売上原価)
純売上高:9,846(千円)
期首棚卸高:6,466(千円)
薬品仕入れ高:5,540(千円)
期末棚卸高:6,368(千円)
売上原価:5,638(千円)
ホンモノ売上総利益=9,846ー5,638→4,208(千円)
100千円程度の差で計算することができました。ある単月での結果ですが、他の月も同様の結果になります。
ステップ②:営業利益の算出
施策のために掛けられる費用の目安や賞与の目安の判断材料
経営者なら各項目の具体的な金額を把握しているので、大きなものを購入していない場合には毎月の流れから「販売費及び一般管理費」は予想ができていると思います。これを売上総利益からマイナスするだけなので、特に難しい計算は必要ありません。
経営者でない場合には各店舗の「販売費及び一般管理費」を予想しなければなりません。ザックリとできる範囲を予想してみましょう。予想することが重要なので、あくまでも予想です。詳しいことは税理士、会計士に任せて調剤業務に集中しましょう。
ザックリ販売費及び一般管理費
細かく見てもよくわからないので、ザックリと3つの項目に分けて想像していきます。「人材」「機器」「家賃」の3つだけ考えていきましょう。
人員:店舗内の人件費を想像してみましょう。わからないときは適当に設定してください。例えば管理薬剤師で年収600万、事務で年収300万くらいとして考えると、管理薬剤師1名+事務2名だと年収プラス法定福利費を計算して【(600万+300万×2)×1.16÷12ヵ月】→として116万円くらいとしておきましょう。
機器:設備の種類・量などにもよりますが、オープン7年未満の中小規模で毎月40万程度としておきましょう。7年以上の薬局では20万円程度としておきましょう。
家賃:周辺のテナントからの想像してみましょう。地方都市では20万円程度の賃借料のところもありますし、地方部でも80万円くらいのところもあります。今回は30万円のテナントです。
ザックリ販売費及び一般管理費→116万円+20万円+30万円
ザックリで計算したところ、私の店舗を薬剤師1名+事務2名で運営したと仮定すると
売上総利益:4,103(千円)/月
販売費及び一般管理費:1,560(千円)/月
営業利益:2,543(千円)/月
となるわけです。これなら人を増やして運営しても大丈夫そうですね。
あれ?営業利益がある程度出ているので、売上総利益に対して給与が正当に評価されていないような気がするぞ
経営者以外の方はこう思えたら今日のブログの目標は完了です。最初は大きくずれているかもしれませんが、少しずつやっているうちに精度が上がります。
損益計算書を課題解決に使おう
売上総利益を上げる:患者数×単価(技術料+薬剤料)ー売上原価
目標を立てるときにはコントロールできるところを数的に振り返る必要があります。
薬剤料は個々の患者で異なり、薬局で選択することができませんので、売上総利益を上げるためには【患者数を増やす】or【技術料を上げる】しか目標を立てることはできません。集患対策を行っているか、在宅等の技術料の高い患者を増やせているかを振り返りしましょう。
売上原価は薬局でコントロールできない薬剤料に依存するので、目標などを設定することは難しい特徴があります。
仮に売上原価に対して働きかけるとすると、①門前医に採用薬の圧縮を依頼する②ボランタリーチェーンに加入する③デッドストック購入など高利率取引に注力する、などがあります。
営業利益を上げる:売上総利益ー販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費を下げる方法を考えると営業利益が上がります。「機器」「賃料」「人員」の3つが大きな要因となります。
調剤機器の減価償却は6年に設定されているものが多いので、オープンから7年以降は販売費及び一般管理費が少し圧縮されます。リース契約を行っている場合にも再リースになることで格安で契約することができますので、再リースなどもうまく活用すると営業利益を上げることができます。
賃料の交渉などもしてみる価値はありますが、私は成功していません。
人員については給与を当然下げることで営業利益が上がりますが、従業員を守ることも会社の使命だと思いますので最終手段とすることをオススメします。利益体系で苦しい損益計算書ならまずは役員報酬を下げましょう。
損益計算書のまとめ
「従業員でいる間は会社の損益計算書なんて関係ない」ということはありません。ザックリと計算をしていくことで、自身の正当な評とのギャップを感じることができます。また、他店舗と比較することで、自店舗の弱みや課題が見えることもありますので、他店舗の同期などと共有してゲーム感覚で分析してみるもの面白いと思います。
これから独立する方は、現在の店舗の利益構造をみることで、もしこの店舗を自分のモノにしたらいくらくらいの役員報酬が見込めるのかを考えて夢を膨らませましょう。
現在の経営者の方は、既にわかりきったことをつらつらを書き綴ってすみませんでした。損益計算書を月次に作成することで、1月の営業が2月、3月にどの程度跳ね返ってきているかの振り返りができるようになります。営業は振り返ってこそです。ラッキーパンチだけでなく狙ったパンチを繰り出せるように損益計算書を活用してみてはいかがでしょうか。
間違いなどがあればTwitterや問い合わせフォームから教えて頂ければ幸いです。