特定薬剤管理指導加算のときに薬歴に何を書いてよいのかわかりません。
薬歴に何を書いてよいのかではなく、何を指導すれば良いかわからないということだね。糖尿病薬の分類を行って、それに対する副作用の指導なども行うようにしましょう。個別指導の際の指摘事項も併せて確認をしていきましょう。
実際に何を書けば良いのかを考える
薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)にはこう書いてあります。
- 患者に対する処方内容(薬剤名、用法・用量等)の確認
- 服用患者のアドヒアランスの確認(Sick Day 時の対処法についての指導)
- 副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育(低血糖及び低血
糖状態出現時の自覚症状とその対処法の指導) - 効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値(HbA1c や血糖値)のモニター)
- 一般用医薬品やサプリメント等を含め、併用薬及び食事との相互作用の確認
- 注射手技の確認(薬剤の保管方法、空打ちの意義、投与部位等)、注射針の取り扱
い方法についての指導
糖尿病薬の場合には薬剤別の副作用管理を意識して指導を行ってください。「効果の確認」や「低血糖なし」だけで特定薬剤管理指導加算を算定していると個別指導で痛い目を見るかもしれませんよ!
糖尿病用剤の指導のポイント
糖尿病用剤の全薬剤の共通項目
副作用とその初期症状、確認事項とシックデイの時の対応
低血糖
初期症状:まず不快感、あくび、急激な空腹感。少し進むと冷や汗、手の震え、動悸。
確認事項:高所作業、自動車の運転等に従事している患者に投与するときには注意。糖分(α-GIの場合はブドウ糖)が補給できる飴や飲料を携帯しているか確認。
糖尿病合併症
糖尿病神経障害→手や足に“左右対称”にあらわれる痺れ(ピリピリ感)があるか確認
糖尿病腎症→定期的な腎機能の確認ができているか確認
糖尿病網膜症→年に1回以上眼底検査(眼科の受診勧奨)
シックデイ時の対応
水分補給を十分に摂ってもらう
風邪を引いた場合にはお粥や果物等で糖分を摂取してもらう
具体的な指導内容
- 糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法です。
- 低血糖の初期症状はまず不快感、あくび、急激な空腹感。少し進むと冷や汗、手の震え、動悸が出ます。重症になると意識消失などになることがあるので注意が必要です。症状が現れた際には飴やドリンクなどで糖分を摂取してください。薬剤によってはブドウ糖でしか改善しないものあるので、各薬剤での対応に注意しましょう。
- (合併症の確認)糖尿病神経障害→手や足に“左右対称”にあらわれる痺れ(ピリピリ感)があるか確認、糖尿病腎症→定期的な腎機能の確認ができているか確認、糖尿病網膜症→年に1回以上眼底検査(眼科の受診勧奨)
- (シックデイ対応)風邪などの感染症で体調が悪い状態をシックデイと言います。食事が不規則になりやすく、低血糖や脱水、血糖値の乱れなども起きやすくなります。まずは受診を行うようにしてください。水分補給を十分に行い、お粥や果物で糖分を摂ってください。
ビグアナイド類(BG)
主な薬剤
メトホルミン
副作用とその初期症状、確認事項とシックデイの時の対応
乳酸アシドーシス
初期症状:胃腸症状、けん怠感、筋肉痛、過呼吸等など
確認事項:腎機能障害、肝機能障害、低酸素血症を伴いやすい状態、脱水(利尿薬やSGLT2の併用には注意)、過度のアルコール摂取、感染症、高齢者等
シックデイ時の対応
発熱、下痢、嘔吐、食事摂取不良等の体調不良の時は脱水状態が懸念されるため、いったん服用を中止
具体的な指導内容
- メトホルミンの副作用の乳酸アシドーシスは胃腸症状、けん怠感、筋肉痛、過呼吸等などが初期症状として現れます。このような症状が現れたらすぐに受診してください。
- メトホルミンを服用している場合には下痢や脱水に注意してください。下痢や脱水の際には医師に連絡をして服用を中止して下さい。
- メトホルミン使用時に過度のアルコール摂取は副作用の誘発リスクになります。
- (シックデイ対応)食事が摂れないような風邪やインフルエンザの際には、水分補給を十分に行いつつ、メトホルミンは休薬してください。熱が落ち着いて水分補給を食事が安定したら再開してください。
- (ヨード造影剤注意喚起)CTや血管造影を行う際にはメトホルミンを使用していることを医師に伝えてください。
チアゾリジン誘導体
主な薬剤
ピオグリタゾン
副作用とその初期症状とシックデイの時の対応
心不全の増悪
初期症状:浮腫、急激な体重増加
確認事項:女性の方が発現頻度が高い、心不全症状・徴候(息切れ、動悸、心胸比増大、胸水等)がみられた場合には投与を中止
膀胱癌のリスク
初期症状:血尿、頻尿、排尿痛等の症状
確認事項:血尿、頻尿、排尿痛等の症状が認められた場合には、直ちに受診、膀胱癌治療中の患者には投与を避ける
シックデイ時の対応
中止してもしばらく作用が続き血糖値に大きく影響しないので休薬
具体的な指導内容
- 女性の方は浮腫の頻度が高いことが報告されています。それに伴って息切れや動悸など違和感がある場合には受診してください。投与の中止、もしくは利尿薬と併用して継続するなど可能性があります。
- 膀胱癌発生のリスクが報じられました。頻度は非常にまれですが、仮に服用中に血尿や頻尿、排尿痛等の違和感が生じた場合には受診してください。.
- (シックデイ対応)この薬剤は休薬後も作用が持続する特徴があるので休薬して様子をみてください。体調が戻ったら再開してください。
スルホニルウレア(SU)類
主な薬剤
グリメピリド、グリクラジド、グリベンクラミド等
副作用とその初期症状とシックデイの時の対応
低血糖
初期症状:脱力感、高度の空腹感、発汗、動悸、振戦、頭痛、知覚異常、不安、興奮、神経過敏、集中力低下、精神障害、意識障害、痙攣等)
確認事項:他の糖尿病治療薬との併用でリスクが高くなるので特に注意、過去の治療を確認して低用量から用いているか確認
シックデイ時の対応
シックデイでもいつもどおりか、いつもよりやや少ないくらい食べられるなら、いつもと同じ量を服用。半分程度しか食べられないのなら薬の量も半分にし、半分も食べられないなら薬は休薬
具体的な指導内容
- 他の糖尿病治療薬との併用で低血糖のリスクが高くなるので、低血糖の症状に注意しましょう。
- (シックデイ対応)食事量に合わせて調整を行ってください。食事が摂れていればいつも通りの用量で、半分くらいの食事量なら半分にして、半分食べられないくらいであれば休薬して構いません。体調と食事が戻ったら再開してください。
速攻型インスリン分泌促進薬
主な薬剤
ナテグリニド、ミチグリニド、レパグリニド
副作用とその初期症状とシックデイの時の対応
低血糖
初期症状:脱力感、高度の空腹感、発汗、動悸、振戦、頭痛、知覚異常、不安、興奮、神経過敏、集中力低下、精神障害、意識障害、痙攣等)
確認事項:他の糖尿病治療薬との併用でリスクが高くなるので特に注意、過去の治療を確認して低用量から用いているか確認
シックデイ時の対応
シックデイでもいつもどおりか、いつもよりやや少ないくらい食べられるなら、いつもと同じ量を服用。半分程度しか食べられないのなら薬の量も半分にし、半分も食べられないなら薬は休薬。基本は食直前投与だが、食事量がわからのために食直後に食べた量に応じて服用しても構わない
具体的な指導内容
- 他の糖尿病治療薬との併用で低血糖のリスクが高くなるので、低血糖の症状に注意しましょう。
- (シックデイ対応)食事量に合わせて調整を行ってください。食事が摂れていればいつも通りの用量で、半分くらいの食事量なら半分にして、半分食べられないくらいであれば休薬して構いません。体調と食事が戻ったら再開してください。食事量が定まらないので、食直後に食べた量に応じて服薬を行ってください。
α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)
主な薬剤
アカルボース、ボグリボース、ミグリトール
副作用とその初期症状とシックデイの時の対応
低血糖
初期症状:冷や汗、手の震え、動悸等
確認事項:他の糖尿病治療薬との併用でリスクが高くなるので特に注意、低血糖症状が認められた場合にはショ糖ではなくブドウ糖を投与すること
腸閉塞
初期症状:腹部膨満、鼓腸、放屁増加等
確認事項:持続する腹痛、嘔吐等の症状があらわれた場合には投与を中止
シックデイ時の対応
下痢などのおなかの症状を強める可能性があり、中止しても血糖値が極端に上がることはないので休薬
具体的な指導内容
- 他の糖尿病治療薬との併用で低血糖のリスクが高くなるので、低血糖の症状に注意しましょう。この薬剤の服用時に低血糖が起きた際にはブドウ糖の服用を行わないと改善しない特徴があります。ブドウ糖を常に携帯しておいてください。もし持ち歩くのを忘れてしまった場合には、ブドウ糖配合の記載のある飲み物などを買ってください。
- 腸閉塞の副作用が報告されています。お腹の痛みなどが継続したり、吐き気が持続する場合は休薬して受診してください。お腹が少し張るような症状は比較的投与開始時に起きやすい副作用になります。
- (シックデイ対応)下痢などの症状が悪化することがあるので休薬してください。体調が戻ったら再開してください。
SGLT2阻害薬
主な薬剤
イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、トホグリフロジン等
副作用とその初期症状とシックデイの時の対応
脱水
初期症状:多尿・頻尿、血圧低下
確認事項:体液量減少を起こしやすい患者(高齢者や利尿剤併用患者等)には特に注意が必要。脱水や糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、脳梗塞を含む血栓・塞栓症等の発現に注意
尿路感染症、性器感染症
初期症状:排尿痛等
確認事項:尿路感染及び性器感染を起こし、腎盂腎炎、外陰部及び会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)、敗血症等の重篤な感染症に至る報告があるので注意
ケトアシドーシス
初期症状:悪心・嘔吐、食欲減退、腹痛、過度な口渇、倦怠感、呼吸困難、意識障害等
確認事項:1型糖尿病ではリスクが高い。尿中グルコース排泄促進作用により、血糖コントロールが良好であっても脂肪酸代謝が亢進し、ケトーシスがあらわれ、ケトアシドーシスに至ることがある
シックデイ時の対応
基本的には脱水やケトーシスを強めるように作用するので休薬
具体的な指導内容
- 利尿作用により多尿・頻尿がみられることがあります。それに伴って体液量が減少することがあるので、適度な水分補給を行ってください。血圧低下や脱水に注意してください。
- 排尿痛や下腹部に違和感がある場合には尿路感染症や性器感染症の可能性があります。重篤な副作用につながる前に抗生剤など服薬が必要になるので受診してください。水分補給を意識的に行うことで予防できる可能性があるので、水分補給を十分に行いましょう。
- (シックデイ対応)脱水などの症状を悪化させることがあるので、休薬してください。
DPP-4阻害薬
主な薬剤
シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン等
副作用とその初期症状とシックデイの時の対応
急性膵炎
初期症状:持続的な激しい腹痛、嘔吐等
確認事項:頻度は不明だが、各類薬で報告されている。休薬後にすぐに受診するように促す必要がある。海外の自発報告においては、出血性膵炎又は壊死性膵炎も報告
腸閉塞
初期症状:高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等
確認事項:腹部手術の既往のある患者、腸閉塞の既往のある患者は特に注意が必要
低血糖
初期症状:冷や汗、手の震え、動悸等
確認事項:インスリン製剤又はスルホニルウレア剤との併用で重篤な低血糖症状
肝機能障害(ビルダグリプチンのみ)
初期症状:ALT又はASTの上昇
確認事項:定期的に血液検査を行っているかデータの確認、黄疸や肝機能障害を示唆するその他の症状があらわれた場合には、投与を中止し、その後回復した場合でも再投与しない
シックデイ時の対応
食事をとれるなら服用。とれないなら服用しても血糖降下作用が少ないことが予想される。
具体的な指導内容
- 服薬中に急性膵炎が報告されるケースがあります。持続的な激しい腹痛、嘔吐等がある場合には休薬して受診を行ってください。
- 腸閉塞が報告されています。高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等がある場合には休薬して受診を行ってください。
- 他剤との併用で単剤よりも低血糖の副作用が起きやすくなります。服薬後の運転などは十分に注意して行ってください。また、低血糖が重篤になる可能性があるので、家族にも低血糖時の対応について説明を行ってください。
- (ビルダグリプチン)肝機能の異常が報告されています。定期的に肝機能を測定していれば問題ありません。黄疸などの異常を感じた際には休薬して受診してください。
- (シックデイ対応)単剤であれば食事が摂れていれば服薬しても構いません。他剤と併用している際には食事量が落ちていれば休薬してください。食事に応じた血糖降下作用を示すので、食事が落ちているときには血糖降下作用はあまり見込めません。
- (用量確認:各薬剤での対応異なる)腎機能に合わせて薬剤の量を調整する必要があります。定期的に腎機能を確認して過量になっていないか確認してください。腎機能が低下していると医師から指摘を受けた際には薬剤師に検査値を伝えてください。
GLP-1受容体作動薬
主な薬剤
リラグルチド、エキセナチド、デュラグルチド
副作用とその初期症状とシックデイの時の対応
急性膵炎
初期症状:持続的な激しい腹痛、嘔吐等 胃腸障害
確認事項:頻度は不明だが、各類薬で報告されている。休薬後にすぐに受診するように促す必要がある。海外の自発報告においては、出血性膵炎又は壊死性膵炎も報告
腸閉塞
初期症状:高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等
確認事項:腹部手術の既往のある患者、腸閉塞の既往のある患者は特に注意が必要
低血糖
初期症状:脱力感、倦怠感、高度の空腹感、冷汗、顔面蒼白、動悸、振戦、頭痛、めまい、嘔気、知覚異常等
確認事項:脳下垂体機能不全又は副腎機能不全、栄養不良状態、飢餓状態、不規則な食事摂取、食事摂取量の不足又は衰弱状態、激しい筋肉運動、過度のアルコール摂取者などの素因がある患者は特に注意が必要
シックデイ時の対応
吐き気や腹痛など、おなかの症状がある場合は休薬。そうでなければ継続。
具体的な指導内容
- 服薬中に急性膵炎が報告されるケースがあります。持続的な激しい腹痛、嘔吐等がある場合には休薬して受診を行ってください。
- 腸閉塞が報告されています。高度の便秘、腹部膨満、持続する腹痛、嘔吐等がある場合には休薬して受診を行ってください。
- (シックデイ対応)吐き気などをチェックして、吐き気や腹痛などがある場合には休薬してください。特に消化器症状がなければ継続して構いません。
- 各種注射手技について窓口にて指導
まとめ
個別指導の際の注意点は「重大な副作用」を初期症状と対策と指導しているかでした。
上記に記載したものはそのほとんどが各薬剤の添付文書からの引用です。保険調剤の基本が添付文書通りにできているかという指導の下に記事を作成しています。上記だけが特定薬剤管理指導加算を取れる指導というわけではありませんが最低限どのようなことを指導して記載すれば良いかという意味で具体的なところまで記載しています。
私の場合はSOAP形式での薬歴のAの部分に「具体的な指導内容」をそのままコピペしています。
最後になりますが、指導官からの言葉をポイントにして終わりたいと思います。
特定薬剤管理指導加算はあくまでも「加算」なので、通常の薬歴管理が行えていないと算定してはいけません。通常の薬歴管理を行ったうえで、さらに必要な場合だけそのときの状況に応じて加算を算定するようにしてください。