特定薬剤管理指導加算のときに薬歴に何を書いてよいのかわかりません。
薬歴に何を書いてよいのかではなく、何を指導すれば良いかわからないということだね。免疫抑制剤では感染症をメインとして、初期症状や日常生活の生活指導なども指導を行うようにするとわかりやすいよ。
実際に何を書けば良いのかを考える
薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)にはこう書いてあります。
- 患者に対する処方内容(薬剤名、用法・用量、投与期間、休薬期間等)の確認
- 服用患者のアドヒアランスの確認(感染症の発症や悪化防止のための注意事項の患者への説明)
- 副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育(感染症の発症等)
- 効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値のモニター)
- 一般用医薬品やサプリメント等を含め、併用薬及びグレープフルーツジュース等の飲食物や食事との相互作用の確認
投与目的を理解しておくことが重要です。
① 薬効分類245「副腎ホルモン剤」に属する副腎皮質ステロイドの内服薬、注射薬及び外用薬は含まれるが、副腎皮質ステロイドの外用薬のうち、その他の薬効分類(131「眼科用剤」、132「耳鼻科用剤」、225「気管支拡張剤」、264「鎮痛、鎮痒、収斂、消炎剤」等)に属するものについては含まれない。
→局所の作用するステロイドは対象外
② 関節リウマチの治療に用いられる薬剤のうち、メトトレキサート、ミゾリビン、レフルノミド、インフリキシマブ(遺伝子組換え)、エタネルセプト(遺伝子組換え)、アダリムマブ(遺伝子組換え)及びトシリズマブ(遺伝子組換え)は含まれるが、金チオリンゴ酸ナトリウム、オーラノフィン、D-ペニシラミン、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、ロベンザリット二ナトリウム及びアクタリットは含まれない。
→免疫抑制剤のみが対象となり、免疫調整剤は対象外
③ 移植における拒絶反応の抑制等に用いられるバシリキシマブ(遺伝子組換え)、ムロモナブ-CD3、アザチオプリン、エベロリムス、塩酸グスペリムス、タクロリムス水和物、シクロスポリン及びミコフェノール酸モフェチルは含まれる。
→同じ薬効分類であったとしても免疫抑制が目的なのか否かで加算の対象かが変わるので各薬剤の作用を理解して、目的と加算が合致しているかを判断していくこと
※上記の記載はありませんが、関節リウマチに用いられるイグラチモドも薬効分類上は対象ではありますが、免疫調整薬の分類に入るので、金チオリンゴ酸ナトリウム、オーラノフィン、D-ペニシラミン、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、ロベンザリット二ナトリウム及びアクタリットと同様に算定不可になると考えられます。
免疫抑制剤の背景別の指導のポイント
免疫抑制剤のチェック事項
副作用と確認事項
全薬剤共通
確認事項:服薬期間中の日常生活においての注意事項の確認
指導事項:服薬期間中は感染症のリスクが高くなるので下記の点の情報提供を行う。
- 手洗い・うがい
- 人ごみへの外出や呼吸器症状のある人との接触はできるだけ避けるように注意
- 銭湯などの公共浴場、循環式風呂やプールの利用は避け、ジャグジー風呂、打たせ湯、噴水などのエアロゾルが発生する場所へ近づくことも避ける
- うがいや歯磨きを行い、口腔内の清潔を保持することが重要
- 肺炎を予防するため、禁煙が必要
- クリプトコックス、トキソプラズマ、サルモネラの危険があるため、ハトや鳥、猫の糞、爬虫類との接触は避ける
- 性生活は定まったパートナーに限定しコンドームを使用
- 咳や熱発などの感染症の初期症状が出た時への対応を指示
関節リウマチのチェック事項
副作用と確認事項
生物学的製剤、JAK阻害剤
まずは対象の患者が下記からリスク因子を持っているかを判断する必要があります。下記は一部になりますが、高齢者などは全薬剤ともにリスクが高くなっていることがわかります。
肺炎のリスク因子 | 重篤な感染症のリスク因子 | |
インフリキシマブ | 男性・高齢・stage III以上・既存肺疾患 | 高齢・既存肺疾患・ステロイド薬併用 |
エタネルセプト | 高齢・既存肺疾患・ステロイド薬併用 | 高齢・既存肺疾患・非重篤感染症合併・class III以上・ステロイド薬併用 |
アダリムマブ | 65歳以上・間質性肺炎の既往/合併・stage III以上 | 65歳以上・糖尿病の既往/合併・間質性肺炎の既往/合併・class III以上 |
確認事項:感染症のリスクの高い患者か否かを判断する
指導事項:下記項目について事前にチェックを行う。
- 初期症状として発熱、倦怠感、咳などが現れた際にはすぐに受診するよう注意喚起
- 呼吸器感染症予防のために、インフルエンザワクチンは可能な限り接種すべきであり、肺炎球菌ワクチン接種も考慮してください(帯状疱疹(水痘)、麻疹、風疹、おたふくかぜ、BCGなどの生ワクチン接種は、TNF阻害薬投与中は禁忌である。また、生ワクチン接種は、本剤投与中止後、3~6ヶ月の間隔を空けることが望ましいので注意喚起)
- 高齢・既存の肺疾患・副腎皮質ステロイド併用などの同肺炎のリスク因子を有する患者ではST合剤によるニューモシスチス肺炎の発症抑制を考慮するなど医師に提案を実施
メトトレキサート
確認事項:初期症状として口内炎や熱発、咳などに注意喚起を行う。症状が見られた場合には早めの受診勧奨を行う。状況によって医師からの指示があるのかを確認しておくことが重要になります。
指導事項:医師の指導内容を確認したうえで下記の情報提供を実施します。
- 医師と連絡が取れないときの対応としては、38℃以上など熱が高めである場合、咳がひどい場合、呼吸困難がある場合、感染部位が拡大傾向にある場合は、その週の内服をスキップし、風邪や気管支炎、皮膚炎の経過を慎重にみる、場合によっては肺炎を想定した抗生物質の治療を検討します。判断に迷われる場合は、次回外来を待たずに診察を受け、レントゲンや血液検査の必要性を判断し、必要な投薬を受けてください。もし経過が長びけば次週のメトトレキサートの内服もスキップすることもありえます。
- 食事・睡眠が十分で、風邪の程度が軽い場合や治ってきている場合、皮膚の病変が軽い場合や拡大のない場合は、定期的なメトトレキサートを服用しても、感染症の治る経過に大きな問題を生じないことが多いかと思われます。
まとめ
免疫抑制剤の内服を調剤薬局で受ける場合には圧倒的に関節リウマチが多いと思われます。薬局で取り扱う薬剤としてはプレドニン等が多いと思いますが、プレドニンは内服治療では、一般にプレドニゾロン換算で5mg/日以上が使われることが多くなります。免疫抑制作用を得るためには、プレドニゾロン換算で20~30mg/日以上が必要になるので、加算に関しては薬剤の種類ではなく、投与目的を把握するようにしてください。
過去にプレドニン眼軟膏でハイリスクを算定していた眼科、ステロイド外用剤でハイリスクを算定していた皮膚科があったと聞きました。電子薬歴のシステムで薬剤で加算の有無が登録になっているところは見直しを掛けた方が良いかもしれません。厚生局も早くこういうところには指導を入れてほしいですね。
加算のための指導ではなく、患者の健康のための加算を意識して算定できるようになると良いと思います。