プルルルル…プルルルル…「はい、薬局のそーえです」
あ、あの、夫が苦しそうで、ど、ど、どうしたら
終末期在宅をしていると、夜間帯にこんなことがあったりします。
医師に聞いてください!看護師に聞いてください!
これをしてしまうと、患者家族からの評価が著しく下がります。今回のブログは解決できる方法ではなく、一時しのぎを行って、適切に医師や看護師に連携を取れることを目的としています。
まずは○○してあげてください。その間に私が医師と看護師に連絡を取りますので、そばにいてあげてください。
イメージとしてはこんな感じです。急変時は家族もパニックになっているので、一時対応を行ってもらい、薬剤師から医師や看護師に伝えてあげるのも一つの手段かと思います。
薬があれば提案できるけど…
急変時の対応ってどうするの
終末期医療で上記のような話が出たときに、まず考えるのは手持ちの薬から一時対応を考える場合です。
終末期医療では事前に「急変Aの場合は○○を使用してください」、「急変Bの場合は△△を使用してください」と決められていることがあるので、それに従うことである程度解消できることもあります。
そのために終末期医療で取り決めがないような場合には、まずはこの提案から行っても良いかもしれません。
終末期在宅対応時に私が経験したよくある「急変」は
疼痛悪化、せん妄、呼吸困難、嘔気、浮腫、腹痛、身の置き所がないとき
こんな感じです。
もちろん急変してそのまま亡くなった方や、薬局を通さずに入院した方もいるので上記がすべてではありません。なんとなくの印象だと思ってください。
どんな薬を提案するか考えてみよう
薬剤師であれば誰もが上記に対して何か薬物提案ができるでしょう!
ちなみに提案はベストな提案でなくても良いと思っています。薬剤師として大きく状況に逸脱していなければ問題ないと考えています。ザックリと記載してみますと
疼痛悪化:オキシコドン
せん妄:ハロペリドール、リスペリドン
呼吸困難:モルヒネ
嘔気:メトクロプラミド、ドンペリドン
浮腫:フロセミド
腹痛:ブチルスコポラミン
身の置き所のないとき:ジアゼパム
こんな感じで記載してみました(これが正解ではありません)。慣れている方は「もっとこっちの方がエビデンスレベルが高い」と指摘があるかもしれませんが、ザックリと最初の提案として怒られることもないと思います。
このような形で決まった薬剤を提案しておくことで、手持ちから患者家族に何を服薬させるべきか伝えることができます。
と、ここまでは前置きです。
結局、薬で介入できていれば何も問題ないのです。今回は薬がない、薬が出るまでに時間がかかるという2つの場合です。
薬がない場合の対応について考える
今回の主テーマです。薬剤師が連絡を受けて適切に繋ぐまでの数分間、薬を届けるまでの数分間の話です。そのために「これさえやっとけばOK」というものではありません。
見当違いなアドバイスにならないために
もしかするとあと数時間で亡くなってしまう可能性もあります。最後の情報提供が見当違いなものになってしまうと薬剤師自身も後悔の念に駆られます。
「それでは調べてみましょう」と言ってもなかなかわからないものです。ただし終末期医療に関しては調べる手段がたくさんあります。
疼痛悪化
がん緩和ケアガイドブックを参考にすると下記のような方法が考えられます。
マッサージをする
体の末端から中心に向かって優しくなでるようにマッサージを行うことで、血行を促進し、むくみや筋肉の緊張を和らげます。心地よいと思えることが大切です。
温罨法・冷罨法
カイロ、温湿布、電気毛布などにより、体を温めて血行を促すことで、痛みが和らぐことがあります。また、氷枕、保冷剤などを用いて血管を収縮させることで、痛みを抑えられることがあります。ただし、冷やしたことで痛みが強くなった場合はやめましょう。
環境の調整
好きな音楽を流したりリラックスできる環境を作ってあげましょう。また、介護者が近くにいて、わかろうとしてくれると思うことが支えになります。
ポジショニング
痛みを感じている部分に負担がかからないような楽な姿勢をとりましょう(例:腹痛があるときは横になって衣服を緩めて膝を曲げる、腰痛があるときは腰に枕をあてる)。
これらのことをまとめると、「痛みがとても強くなってどうしたら良いでしょうか」という電話が来た時にはこのような対応はいかがでしょうか。
せん妄
がん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ1がん患者におけるせん妄ガイドラインでは下記のようなことが紹介されています
せん妄の促進因子に対して介入する必要があります。せん妄の促進因子とは、せん妄を発症しやすい状態に近づけ、発症、悪化、遷延化につながるものである。具体的には、身体的要因(痛み・便秘。尿閉・脱水・不動化・ライン類・身体的拘束・視力低下・張力低下)、精神的要因(不安・抑うつ)、環境変化(入院・ICU・明るさ・騒音)、睡眠(不眠・睡眠障害)などの要素が挙げられる。予防的観点からも、またせん妄発症後の治療的観点からも、これらの要因を可能な限り取り除くことが大変重要である。
なかなか家族にこれらを伝えるのは難しいので、「なにかよくわからないことを言っていてどうしたら良いでしょうか」という緊急の電話が来た際にはこのような対応はいかがでしょうか。
呼吸困難
がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドラインでは下記の方法が報告されています。
対象がCOPDであったり、健常者という背景は異なりますが、今回の状況は根本的に解決を目指すわけではなく、医師とつなぐ十数分の対応なので試す価値はあると思います。
送風
扇風機やうちわで顔に送風する方法は、呼吸困難を軽減する簡便な手段であり、自宅療法においても実践的かつ経済的で簡単な方法であることが示唆される。顔に冷気を当てる方法が、呼吸困難の軽減に有効であることが報告されている。
これらのことから「苦しそうです。どうしたらよいでしょうか」という緊急の電話が来た際にはこのような対応はいかがでしょうか。
嘔気
がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドラインではこのような紹介があります。
悪心・嘔吐の誘発因子の除去
嘔吐物のほか、食品のにおいや排泄物、薬剤や化粧品、芳香剤などのにおいも症状を引き起こす刺激になりやすいために、できるだけ避けられるように配慮する。
安楽な体位の工夫
ベッドのギャジアップやオーバーテーブル、クッションなどで、できるだけ症状が刺激されず患者が安楽と感じる体位がとれるように工夫する。
心理的なサポート
悪心・嘔吐があるときはそばにいて、不快感のない程度に背中をさすったり、ゆっくりと声をかけ、不安や苦痛の軽減を図る。
嘔気で緊急の電話が来た際にはこのような対応はいかがでしょうか。
最期の対応を後悔しないために
上記で非薬物療法をまとめてみました。
薬剤師の基本は薬物療法なので、この非薬物療法では看護師さんのマネゴトくらいにしかならないかもしれませんが、連絡が取れるまでの数分、処方箋が来るまでも数十分、お届けできるための数時間を後悔しないために手段になればよいと考えています。
上記以外の対策も数多く存在すると思いますので、その手始めとして考えてもらえる気かけとなれば幸いです。
ちなみに私は24時間薬局にいるわけではありませんが、緊急の電話が来た時に仕事着に着替えながら電話をして、いち早く患者のもとに行くことを優先しています。患者さんやその家族は1人では不安を抱えやすいので、まずは医療者としてその場に向かうこと、そばにいれることを意識しています。